第20講 to 不定詞(1)|名詞用法と形式主語|英文の原理
― 名詞用法と形式主語
不定詞の名詞用法は「〜すること」。長い主語は頭でっかちを避けて後ろに回し、it を仮に置きます。この it の正体を見抜けるかが鍵です。
第2講で準動詞(to do / doing / done)を外し、第8講でその働きを位置で決めました。ここからの第20〜24講は、その実戦編です。まず不定詞の名詞用法――「〜すること」として主語・目的語・補語になる形と、頭でっかちを避ける形式主語 itを扱います。It … to do の it を「それ」と訳して詰まる誤りを、ここで解消します。
1. 原理 ― 不定詞の名詞用法は「〜すること」
不定詞が名詞の働き(主語・目的語・補語・前置詞の後ろは原則不可)をするとき、名詞用法。「〜すること」と訳す。主語になると頭でっかちなので、it を仮に置いて後ろに回すことが多い。
| 位置 | 例 | 訳 |
|---|---|---|
| 主語 | To master a language takes years. | 言語を習得することは〜 |
| 目的語 | She wants to study abroad. | 〜することを望む |
| 補語 | His goal is to become a doctor. | 目標は〜すること |
2. 形式主語・形式目的語の it
不定詞が主語になると、主語が長く「頭でっかち」になります。英語はこれを嫌い、仮の it を主語の位置に置き、本物の主語(不定詞)を後ろに回します。この it は「それ」とは訳さず、後ろの不定詞を指すのが正体です。
→ It is impossible to finish this by tomorrow.(it=to finish…)
目的語でも同じことが起きます(形式目的語)。find / make / think / believe などが第5文型で長い不定詞を目的語に取るとき、it を仮に置いて本物を後ろに回します。
3. 例文の解析
It is dangerous to ignore the early warning signs.
- it
- 形式主語。本物の主語は to ignore …
- 訳
- 「早期の警告サインを無視することは危険だ」
早期の警告サインを無視することは危険だ。
It is unusual for a first novel to receive such attention.
- for a first novel
- 不定詞の意味上の主語(受けるのは処女作)
処女作がこれほどの注目を集めるのは珍しい。
不定詞の動作主を示すときは for A to do。a first novel が「注目を集める」主体です(第2講の意味上の主語)。
It was careless of him to leave the door unlocked.
- of him
- 人の性質を表す形容詞(careless/kind/wise)では of を使う
ドアの鍵をかけないままにしておくとは、彼は不注意だった。
kind / careless / wise / foolish など人の性質を評する形容詞では、for ではなく of を使います。「〜するとは(人)は…だ」。
The new software makes it easy to share documents securely.
- it
- 形式目的語(第5文型 make O C の O)。本物は to share …
その新しいソフトは、文書を安全に共有することを容易にする。
make/find/think it C to do の it は形式目的語。it の直後に形容詞(C)が来て、後ろに to do があればこの型です。
The plan looked promising, but it turned out to be flawed.
- it
- 前の The plan を指す代名詞(形式主語ではない)
その計画は有望に見えたが、欠陥があると判明した。
後ろに「本物の主語」となる to do や that 節がないので、この it はふつうの代名詞「それ(=計画)」。turn out to be は「〜と判明する」。見分けは「後ろに本物の主語があるか」です。
It has become increasingly difficult for researchers to secure funding for projects whose benefits may not appear for decades.
- it
- 形式主語。本物は to secure funding …
- for researchers
- 意味上の主語
- whose節
- 関係代名詞(所有格・第13講)。projects を説明
利益が何十年も現れないかもしれないプロジェクトのために、研究者が資金を確保することは、ますます難しくなっている。
形式主語 It、意味上の主語 for researchers、所有格の関係詞 whose が同居。It を見た瞬間に「後ろに to do が来る」と予測できると、長くても崩れません。
4. つまずきやすい形
(1) 形式主語の it を「それ」と訳さない
It is important to listen. を「それは聞くことが重要だ」と訳すと不自然。it は後ろの to listen を指すので、「聞くことは重要だ」と訳します。it は訳語に出しません。
(2) for A と of A の使い分け
ふつうは for A to do(意味上の主語)。ただし kind / careless / wise / rude / clever など人の性質を評する形容詞のときだけ of A to do。「It is kind of you to help.(手伝ってくれて親切だ)」。
(3) 主語の不定詞は、実際にはたいてい形式主語に
To do をそのまま主語に置くのは、やや硬い・格言的な響きです。現代英語では It … to do の形式主語が普通。不定詞が主語なら形式主語 it を疑うのが実戦的です。
(4) 疑問詞+to do も名詞のかたまり
how to swim(泳ぎ方)、what to do(何をすべきか)、where to go(どこへ行くべきか)。〈疑問詞+不定詞〉も名詞の働きをします。I don't know what to say.
5. 入試ではこう出る
和訳問題で It … to do / It … that S V が出たら、形式主語を疑い、後ろの不定詞・that 節を主語として訳します。it を「それ」と訳す誤りは、後ろの本物の主語を見ていないときに起きます。形式目的語(make it C to do)も同様で、it の中身は後ろにあります。
文法問題では、for A to do と of A to do の区別(形容詞が人の性質を表すか)が問われます。また、意味上の主語を伴う不定詞は、英作文でも「誰が〜するか」を明示する手段として重要です。
6. 確認問題
各文の it が①形式主語・形式目的語か、ふつうの代名詞か ②本物の主語・目的語は何かを確認してから開いてください。
(1) It takes patience to learn a musical instrument.
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形式主語。本物の主語は to learn a musical instrument。「楽器を習得することには忍耐が要る」。it は訳出しません。
楽器を習得するには忍耐が要る。
(2) The manager considered it unwise to expand so quickly.
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形式目的語。consider it C to do の it。本物の目的語は to expand so quickly。「そんなに速く拡大することは賢明でないと考えた」。
その部長は、そんなに速く事業を拡大するのは賢明でないと考えた。
(3) It was generous of her to donate the entire prize.
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形式主語+of(人の性質)。generous は人の性質を評する形容詞なので of her。「賞金を全額寄付するとは、彼女は寛大だった」。
賞金を全額寄付するとは、彼女は寛大だった。
(4) She picked up the phone, but it was already too late.
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ふつうの代名詞。後ろに本物の主語(to do/that 節)が無いので、形式主語ではありません。it は状況を漠然と指す「時・状況の it」。「もう手遅れだった」。
彼女は電話を取ったが、もう手遅れだった。
(5) Advances in translation have made it possible for small firms to reach global markets.
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形式目的語(make it C to do)+for A(意味上の主語)。本物の目的語は to reach global markets、その主語は small firms。「小さな企業が世界市場に届くことを可能にした」。
翻訳の進歩は、小さな企業が世界市場に到達することを可能にした。
7. この講のまとめ
| 名詞用法 | 「〜すること」。主語・目的語・補語になる |
|---|---|
| 形式主語 it | 頭でっかちを避け、本物の主語(to do/that節)を後ろへ。it は訳さない |
| 形式目的語 it | make/find/think it C to do。it の中身は後ろの to do |
| 意味上の主語 | for A to do(普通)/of A to do(人の性質の形容詞) |
| 見分け | 後ろに本物の主語があれば形式主語、無ければふつうの代名詞 |
次の第21講では、不定詞の形容詞用法と副詞用法を扱い、3用法の判別(第2・8講の応用)を完成させます。名詞用法(本講)と合わせて、不定詞を見たときに働きを一瞬で決められるようにします。
次の講へ
形式主語の it を、後ろから読み解く
It … to do の it を見た瞬間に「後ろに本物の主語」と予測できると、長い文でも崩れません。日本英語塾は担任制のオンライン英語専門塾です。実際の入試英文・英作文で、形式主語・形式目的語・意味上の主語を正確に扱う力をつけます。
