第15講 非制限用法|コンマが変えるもの|英文の原理
― コンマが変えるもの
関係詞の前にコンマがあるかないか。たったそれだけで、意味も訳し方も変わります。コンマは「補足」の合図です。
第13・14講で関係詞の仕組みを整理しました。この講で扱うのは、関係詞の前にコンマが付く形――非制限用法です。コンマが付くと、関係詞節は「先行詞を絞り込む」働きから「先行詞に補足を加える」働きへ変わります。訳し方も、前から順に流す形になります。仕組みを知れば、コンマ一つで読み方を切り替えられます。
1. 原理 ― コンマは「補足」の合図
コンマなしの関係詞節(制限用法)は、先行詞がどれかを絞り込む。コンマ付きの関係詞節(非制限用法)は、すでに定まった先行詞に補足情報を加える。
違いは、次の2文を比べるとはっきりします。
| 用法 | 例 | 意味 |
|---|---|---|
| 制限(コンマなし) | His sister who lives in Osaka is a doctor. | 大阪に住む(ほうの)姉は医者だ =姉が複数いる含み |
| 非制限(コンマあり) | His sister, who lives in Osaka, is a doctor. | 彼の姉は――大阪に住んでいるのだが――医者だ =姉は一人 |
制限用法は「どの姉か」を絞り込むので、姉が複数いる前提になります。非制限用法は姉が一人に定まっていて、「ついでに大阪に住んでいる」と補足するだけ。コンマがあるだけで、含意がここまで変わります。
2. 2つの用法の違い ― まとめ
| 制限用法(コンマなし) | 非制限用法(コンマあり) | |
|---|---|---|
| 働き | 先行詞を絞り込む | 先行詞に補足する |
| 訳し方 | 後ろから前へ(〜する名詞) | 前から後ろへ(名詞、それは〜) |
| that | 使える | 使えない(who/whichを使う) |
| 省略 | 目的格は省略可 | 省略不可 |
| 先行詞 | 名詞 | 名詞/句/節(前の文全体も) |
3. 例文の解析
The keynote speaker, who had flown in from Berlin, arrived just before the session.
- コンマ
- あり → 非制限(補足)
- 骨格
- The keynote speaker arrived(挿入を外すと見える)
基調講演者は――ベルリンから飛んできたのだが――セッションの直前に到着した。
コンマではさまれた関係詞節は挿入です。いったん外すと骨格 The speaker arrived が見えます(第5講)。
He finished the marathon in under three hours, which surprised everyone.
- which の先行詞
- 前の文全体(「彼が3時間以内に完走したこと」)
- 判定
- 非制限用法。先行詞は名詞ではなく文
彼はマラソンを3時間以内で完走し、そのことがみんなを驚かせた。
コンマ+which が前の文全体を受けることがあります。「そのことが〜」と前から訳します。that はこの用法に使えません。
The passengers who had seat belts on survived. / The passengers, who had seat belts on, survived.
The passengers, 〔who had seat belts on〕, survived. … 補足(全員がしていて、全員助かった)
- コンマなし
- ベルトをしていた乗客「だけ」が助かった(していない人もいた)
- コンマあり
- 乗客は全員ベルトをしていて、全員助かった
シートベルトをしていた乗客が助かった/乗客は、皆シートベルトをしており、助かった。
同じ語の並びでも、コンマの有無で「誰が助かったか」が変わります。非制限用法の理解は、内容一致問題で決定的に効くことがあります。
She moved to Kyoto in 2010, when the city was hosting a major exhibition.
- when
- 非制限の関係副詞。in 2010 に補足を加える
彼女は2010年に京都へ移り住んだ。その年、市では大きな展覧会が開かれていた。
関係副詞にも非制限用法があります。「そのとき〜」と前から訳します。
The company employs 200 researchers, many of whom hold doctorates.
- many of whom
- =many of the researchers。非制限の関係詞
その会社は200人の研究者を雇っており、その多くは博士号を持っている。
some / many / most / none / all + of which / of whom は頻出の型。「そのうちの多くは〜」と前から訳します。
The theory, which had dominated the field for decades and which few had dared to question, collapsed almost overnight.
- 2つの which
- ともに非制限。and で並列された補足
- 骨格
- The theory collapsed(挿入を外す)
その理論は――何十年も分野を支配し、疑おうとする者もほとんどいなかったのだが――ほとんど一夜にして崩れ去った。
コンマではさまれた長い補足(2つの関係詞節が and で並列)を外すと、骨格は The theory collapsed の2語。非制限用法は、外して骨格をつかむのが読みの基本です。
4. つまずきやすい形
(1) コンマの後ろに that は来ない
非制限用法に that は使えません。My car, that is ten years old, still runs well. は誤りで、which が正しい。コンマ+that を見たら、関係代名詞ではないと判断できます。
(2) 非制限用法は省略できない
目的格でも、非制限では省略できません。My teacher, whom I still respect, has retired. の whom は省けません。コンマがあるのに関係詞が見当たらなければ、別の構造です。
(3) 前から訳す
制限用法は「〜する名詞」と後ろから訳しますが、非制限用法は前から順に訳します。the man, who was tired, は「疲れていたその男」ではなく「その男は、疲れていたのだが」。訳の流れが逆になります。
(4) 会話・書き言葉では音・区切りで判断
実際の英文では、コンマが明示されないこともあります。そのときは、「先行詞がすでに一つに定まっているか」で判断します。固有名詞や my father のように、もともと一つに決まっている先行詞は、非制限で読むのが自然です。
5. 入試ではこう出る
非制限用法は、内容一致問題で差がつきます。EX 3 のように、コンマの有無で「一部か全部か」が変わる文は、選択肢のひっかけに使われます。「ベルトをしていた人だけ助かった」のか「全員していて全員助かった」のか――コンマを見落とすと、正誤が逆になります。
和訳問題では、非制限用法を「〜する名詞」と後ろから訳してしまう誤りが多い。コンマ付きは前から「名詞、それは〜」と訳すのが原則です。とくに , which が前の文全体を受ける形(EX 2)は、「そのことが〜」と訳せるかが問われます。
6. 確認問題
各文が①制限用法か非制限用法か ②意味の違い(何を絞り込む/補足するか)を言えるようにしてから開いてください。
(1) My grandfather, who turned ninety last week, still gardens every day.
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非制限用法。先行詞 My grandfather は一人に定まっており、「先週90歳になった」は補足。前から「祖父は、先週90歳になったのだが、〜」と訳します。
祖父は、先週90歳になったのだが、今も毎日庭仕事をしている。
(2) Students who fail to submit the form by Friday will not be considered.
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制限用法。コンマなし。「金曜までに提出しない学生」を絞り込んでいます(提出する学生は対象外)。後ろから「〜しない学生」と訳します。
金曜までに用紙を提出しない学生は、選考対象外となる。
(3) The bridge was closed for repairs, which caused major traffic delays.
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非制限用法(which が前の文全体を受ける)。「橋が閉鎖されたこと」が渋滞を引き起こした。「そのことが〜」と前から訳します。that は使えません。
その橋は修理のため閉鎖され、そのことが大きな交通渋滞を引き起こした。
(4) She interviewed thirty candidates, most of whom were highly qualified.
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非制限用法(most of whom)。=most of the candidates。「そのほとんどは高い資質を持っていた」と前から訳します。数量表現+of whom/which の型です。
彼女は30人の候補者を面接したが、そのほとんどは高い資質を備えていた。
(5) The witnesses who changed their statements were questioned again.
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制限用法。コンマなし。「供述を変えた(ほうの)証人」を絞り込んでいます(変えなかった証人は再尋問されていない含み)。もしコンマが付けば「証人は全員供述を変え、全員が再尋問された」に変わります。
供述を変えた証人たちが、再び尋問された。
7. この講のまとめ
| 制限用法 | コンマなし。先行詞を絞り込む。後ろから訳す。that可・目的格省略可 |
|---|---|
| 非制限用法 | コンマあり。先行詞に補足する。前から訳す。that不可・省略不可 |
| which が受けるもの | 名詞だけでなく、前の文全体も受けられる(非制限) |
| 数量+of which/whom | most of whom など。「そのうちの〜」と前から |
| 効きどころ | 内容一致問題(一部か全部か)/和訳の方向(前から) |
関係詞は第13〜15講で一通り扱いました。次の第16講では、関係詞の中でも特別な what――「先行詞を含む」という性質――を、名詞節を作る語として掘り下げます。
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コンマ一つで、読み方を切り替える
非制限用法の見落としは、内容一致で失点に直結します。日本英語塾は担任制のオンライン英語専門塾です。実際の入試英文で、コンマの有無から意味の違いを読み取り、和訳の方向まで正しく判断する力をつけます。
